AI時代のUXは「使いやすさ」を超える ─ 安藤研究室展から見えた「作り手の願い」という設計思想 2026年03月16日 ①


先日、私の師匠でもある安藤昌也先生の研究展覧会をウェビナーで拝見いたしました。

今回のタイトルはこうです。

当たり前を揺さぶるUXデザイン
~「作り手の願い」が描き出す新しい体験の方向性

UXデザインの研究展としては、かなり挑戦的なタイトルです。

見終わって感じたのは、
これは単なる研究発表ではなく、

「UXデザインの前提を問い直す提案」

だったということでした。

そして結論を先に言うと、この研究展が問いかけているのは次のことです。

AI時代のUXデザインは
「ユーザー中心設計」だけでは足りない。

「作り手の願い」を設計する必要がある。

今回は、その意味をUXデザイナー視点で整理してみたいと思います。


① まず前提:「作れる時代」になったUX

今回の研究展の出発点は、とてもシンプルです。

生成AIによって、プロダクトは「作れてしまう時代」になった。

たとえば今は、

・UIデザイン
・プロトタイプ
・コード
・文章

こうしたものが、AIによってかなりの精度で生成できるようになっています。

最近ではこんな議論まで出ています。

「UIデザイナーの必須ツールFigmaは、
生成AI時代には不要になるのではないか」

もちろんこれは極端な意見ですが、
ここで重要なのはツールの話ではありません。

問題は次の点です。

作れることと、良い体験を作れることは別問題

ということです。


② AIが生む、UXの新しい問題

生成AIはデザインの世界に大きな変化をもたらしています。
しかしその一方で、新しい問題も生まれています。

研究展では次のような課題が挙げられていました。


■デザイン能力をどう評価するのか?

AIでUIを作れるようになると、

・成果物だけでは能力が評価できない
・デザインの学習プロセスが見えなくなる

という問題が出てきます。


■プロトタイプが早すぎる問題

AIによってプロトタイプはすぐ作れます。

これは一見メリットです。

しかし同時に、こういう危険もあります。

作ったものへの執着が
検証を「調整」にすり替えてしまう可能性

つまり、

仮説検証ではなく
作ったものを正当化する作業になってしまう。

これはUXの現場でもよくある話です。


③ そこで登場する「作り手の願い」

ここで先生が提示したのが、
今回の研究の中心概念です。

■作り手の願い

簡単に言うと、これはこういう考え方です。

このサービスを使い続けた先に
ユーザーはどんな人になってほしいのか?

つまりUXを、

・機能
・操作性
・便利さ

だけで考えるのではなく、

人の変化

という観点で設計しようという提案です。


④ UXを3つのレイヤーで考える

研究ではUXを次の3つのレイヤーで整理しています。


① Do / Have

(できること)

現在の課題を解決する機能

・日記を書ける
・気分を記録できる


② Become

(気づいてほしいこと)

サービスを使うことで、

ユーザーに気づいてほしいこと。

・感情と生活習慣の関係


③ Be

(なってほしい姿)

最終的にユーザーに
なってほしい姿。

・自分の感情に向き合える人になる


つまりUXとは

機能設計ではなく
人の変化を設計すること

だというわけです。


⑤ キーワードは「天然知能」

今回の展示で特に印象的だった言葉があります。

それが

天然知能

です。

資料ではこう説明されています。

人が今の文脈から離れ、
予測不能な外部を受け入れたとき、
驚きや創造性が生まれる状態

UX的に言い換えると、

人の認識が変わる瞬間

です。


⑥ UXの役割は「気づき」を作ること

この考え方は、UXデザインにとってとても重要です。

なぜなら多くのサービスは、

・効率
・最適化
・摩擦の削減

を目標にしているからです。

しかし人が変わる瞬間は、

必ずしも効率的ではありません。

むしろ

・違和感
・発見
・再解釈

といった体験の中で起こります。

つまりUXとは、

ユーザーに気づきを与える環境を作ること

なのではないか。

そんな問いがここにあります。


⑦ AppleのUXがなぜ優れているのか

展示ではAppleの事例も紹介されていました。

たとえば

・ジャーナル
・ヘルスケア
・心の状態

といったアプリです。

これらは

・感情
・運動
・睡眠
・内省

といったデータの関係を
ユーザー自身が見つけられる設計になっています。

ここで重要なのは、

答えを押し付けていない

ことです。

UXの本質は

説明することではなく
気づけるようにすること

なのかもしれません。


⑧ UXデザイナーは「庭師」である

今回の展示の中で、
とても象徴的だった寓話があります。
(寓話を作ってきたのはびっくりしました)

タイトルは

「北風と太陽と静かなる庭師」

です。

これはUXデザイナーの役割を表しています。

UXデザイナーは

・ユーザーを操作する人ではない
・ユーザーを説得する人でもない

そうではなく

ユーザーが自分で気づく環境を整える人

つまり

庭師

なのです。


⑨ この研究がUX業界に投げている問い

今回の研究は、UX業界に次の問いを投げています。


UXは便利さだけでいいのか?


UXは効率だけでいいのか?


UXはユーザーの要求だけ見ていればいいのか?


AI時代において

・UI制作
・プロトタイピング

はますます自動化されていきます。

そのときUXデザイナーに残るのは、

人はどう変わるべきなのか?

という問いです。

そしてその問いを、

倫理的に
慎重に
利他的に

設計すること。

それが

「作り手の願い」

なのだと思います。


🎯 結論

今回の研究展を、私なりに一文でまとめるならこうです。

AIによって「作ること」が簡単になった時代に
UXデザイナーの仕事は
「何を作るか」ではなく

「人がどう変わる体験を作るのか」
を考えることになる。

そしてそのとき、

UXデザイナーは

静かな庭師

のような存在になるのかもしれません。

長くなりますが、②につづきます。


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