先日、私の師匠でもある安藤昌也先生の研究展覧会をウェビナーで拝見いたしました。
今回のタイトルはこうです。
当たり前を揺さぶるUXデザイン
~「作り手の願い」が描き出す新しい体験の方向性
UXデザインの研究展としては、かなり挑戦的なタイトルです。
見終わって感じたのは、
これは単なる研究発表ではなく、
「UXデザインの前提を問い直す提案」
だったということでした。
そして結論を先に言うと、この研究展が問いかけているのは次のことです。
AI時代のUXデザインは
「ユーザー中心設計」だけでは足りない。「作り手の願い」を設計する必要がある。
今回は、その意味をUXデザイナー視点で整理してみたいと思います。
① まず前提:「作れる時代」になったUX
今回の研究展の出発点は、とてもシンプルです。
生成AIによって、プロダクトは「作れてしまう時代」になった。
たとえば今は、
・UIデザイン
・プロトタイプ
・コード
・文章
こうしたものが、AIによってかなりの精度で生成できるようになっています。
最近ではこんな議論まで出ています。
「UIデザイナーの必須ツールFigmaは、
生成AI時代には不要になるのではないか」
もちろんこれは極端な意見ですが、
ここで重要なのはツールの話ではありません。
問題は次の点です。
作れることと、良い体験を作れることは別問題
ということです。
② AIが生む、UXの新しい問題
生成AIはデザインの世界に大きな変化をもたらしています。
しかしその一方で、新しい問題も生まれています。
研究展では次のような課題が挙げられていました。
■デザイン能力をどう評価するのか?
AIでUIを作れるようになると、
・成果物だけでは能力が評価できない
・デザインの学習プロセスが見えなくなる
という問題が出てきます。
■プロトタイプが早すぎる問題
AIによってプロトタイプはすぐ作れます。
これは一見メリットです。
しかし同時に、こういう危険もあります。
作ったものへの執着が
検証を「調整」にすり替えてしまう可能性
つまり、
仮説検証ではなく
作ったものを正当化する作業になってしまう。
これはUXの現場でもよくある話です。
③ そこで登場する「作り手の願い」
ここで先生が提示したのが、
今回の研究の中心概念です。
■作り手の願い
簡単に言うと、これはこういう考え方です。
このサービスを使い続けた先に
ユーザーはどんな人になってほしいのか?
つまりUXを、
・機能
・操作性
・便利さ
だけで考えるのではなく、
人の変化
という観点で設計しようという提案です。
④ UXを3つのレイヤーで考える
研究ではUXを次の3つのレイヤーで整理しています。
① Do / Have
(できること)
現在の課題を解決する機能
例
・日記を書ける
・気分を記録できる
② Become
(気づいてほしいこと)
サービスを使うことで、
ユーザーに気づいてほしいこと。
例
・感情と生活習慣の関係
③ Be
(なってほしい姿)
最終的にユーザーに
なってほしい姿。
例
・自分の感情に向き合える人になる
つまりUXとは
機能設計ではなく
人の変化を設計すること
だというわけです。
⑤ キーワードは「天然知能」
今回の展示で特に印象的だった言葉があります。
それが
天然知能
です。
資料ではこう説明されています。
人が今の文脈から離れ、
予測不能な外部を受け入れたとき、
驚きや創造性が生まれる状態
UX的に言い換えると、
人の認識が変わる瞬間
です。
⑥ UXの役割は「気づき」を作ること
この考え方は、UXデザインにとってとても重要です。
なぜなら多くのサービスは、
・効率
・最適化
・摩擦の削減
を目標にしているからです。
しかし人が変わる瞬間は、
必ずしも効率的ではありません。
むしろ
・違和感
・発見
・再解釈
といった体験の中で起こります。
つまりUXとは、
ユーザーに気づきを与える環境を作ること
なのではないか。
そんな問いがここにあります。
⑦ AppleのUXがなぜ優れているのか
展示ではAppleの事例も紹介されていました。
たとえば
・ジャーナル
・ヘルスケア
・心の状態
といったアプリです。
これらは
・感情
・運動
・睡眠
・内省
といったデータの関係を
ユーザー自身が見つけられる設計になっています。
ここで重要なのは、
答えを押し付けていない
ことです。
UXの本質は
説明することではなく
気づけるようにすること
なのかもしれません。
⑧ UXデザイナーは「庭師」である
今回の展示の中で、
とても象徴的だった寓話があります。
(寓話を作ってきたのはびっくりしました)
タイトルは
「北風と太陽と静かなる庭師」
です。
これはUXデザイナーの役割を表しています。
UXデザイナーは
・ユーザーを操作する人ではない
・ユーザーを説得する人でもない
そうではなく
ユーザーが自分で気づく環境を整える人
つまり
庭師
なのです。
⑨ この研究がUX業界に投げている問い
今回の研究は、UX業界に次の問いを投げています。
UXは便利さだけでいいのか?
UXは効率だけでいいのか?
UXはユーザーの要求だけ見ていればいいのか?
AI時代において
・UI制作
・プロトタイピング
はますます自動化されていきます。
そのときUXデザイナーに残るのは、
人はどう変わるべきなのか?
という問いです。
そしてその問いを、
倫理的に
慎重に
利他的に
設計すること。
それが
「作り手の願い」
なのだと思います。
🎯 結論
今回の研究展を、私なりに一文でまとめるならこうです。
AIによって「作ること」が簡単になった時代に
UXデザイナーの仕事は
「何を作るか」ではなく「人がどう変わる体験を作るのか」
を考えることになる。
そしてそのとき、
UXデザイナーは
静かな庭師
のような存在になるのかもしれません。
長くなりますが、②につづきます。


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