AI時代だからこそ、人間中心設計をもう一度考える
HCD-Netセミナー「作れちゃう時代の“願う”UXデザイン」に参加して
6月25日にHCD-Net教育事業部のセミナーへ参加しました。
今回のテーマは、
「作れちゃう時代の“願う”UXデザイン ~見えていない関係性に人間性の可能性を見出す~」
講師は、千葉工業大学の安藤昌也先生です。
ここ1~2年でAIは急速に進化し、私自身もChatGPTをはじめとする生成AIを仕事や勉強で毎日のように使っています。
そのため、「AI時代のUXデザイナーはどうあるべきか」というテーマには非常に興味がありました。
今回の講演では、単に「AIを活用しましょう」という話ではなく、人間中心設計そのものを見つめ直す内容で、とても考えさせられました。
AIによって「作ること」は驚くほど簡単になった
講演では、海外レポート「AI in Design 2026」をもとに、AIによってデザインの仕事がどのように変化しているかが紹介されました。
特に印象に残ったのは、
- 制作スピードが大幅に向上している
- 高品質なプロトタイプを短時間で作れる
- コードまでAIが支援してくれる
という変化です。
これは私自身も実感しています。
以前であれば数時間かかっていたワイヤーフレームや画面イメージも、AIを使えば数分で形になります。
本当に便利な時代になりました。
しかし先生は、そこで一つの問いを投げかけました。
「スピードが上がったことで、本当に『何を、なぜデザインするのか』を考える時間が増えているのでしょうか。」
この言葉は、とても印象に残っています。
AI時代に起こる3つの落とし穴
今回の講演で最も印象に残ったのが、「作れちゃうから起こること」として紹介された3つの落とし穴です。
① 主体感の希薄化
AIにプロンプトを入力し、少しだけ修正すると、それなりのデザインが完成してしまいます。
便利ではありますが、
「これは本当に自分が作ったと言えるのだろうか。」
そんな感覚が生まれてしまうという話でした。
私もChatGPTを使っていて、「ここまでAIが考えてくれるなら、自分は何をしているんだろう」と感じることがあります。
もちろんAIは便利ですが、「考える」という行為そのものをAIに任せ過ぎることには注意しなければいけないと感じました。
② 忖度の構造化
これも非常に現実的な話でした。
今まではプロトタイプを作ること自体に時間もコストもかかっていました。
しかしAIなら、上司でも簡単に画面案を作れてしまいます。
すると、
「部長が作った案だから…」
「せっかく作ったし…」
という空気が生まれ、本来デザイナーが持つべき専門性が発揮しにくくなる可能性があります。
AIは便利ですが、組織の意思決定まで変えてしまう可能性があるという指摘は非常に興味深く感じました。
③ 仮説の自己確認化
これが一番怖い話だと思いました。
本来ユーザー調査は、
「仮説が正しいかを確かめる」
ために行います。
ところがAIですぐにプロトタイプが作れるようになると、
最初に思いついた案をそのまま検証してしまい、
結果として
「やっぱりこの案で良かった」
という答え合わせになってしまう。
つまり、
「もっと良い案があるかもしれない」
という発想そのものが失われてしまう危険性があるということです。
UXでは「仮説を疑う姿勢」が重要ですが、それをAIが便利にしてくれるほど忘れやすくなるというのは、とても考えさせられました。
「面倒くさい」ことには意味があった
今回、一番納得した話があります。
それは、
「人間中心設計のプロセスには、面倒くささに意味があった」
という考え方です。
今までは、
- ユーザーリサーチ
- ペルソナ作成
- アイデア発想
- ペーパープロトタイプ
- ユーザーテスト
という流れを何度も繰り返していました。
正直、とても時間がかかります。
でも、その「時間がかかる」ということ自体が、一つひとつ丁寧に考える理由になっていたのです。
AIによってその摩擦がほとんどなくなった今、
「なぜそのプロセスが必要だったのか」
を改めて考える必要があるという話には深く共感しました。
「作り手の願い」という考え方
講演後半では、「作り手の願い」という新しいフレームワークが紹介されました。
これは単にユーザーの課題を解決するだけではありません。
最終的に、
- ユーザーにどんな人になってほしいのか(Be)
- そのために何に気づいてほしいのか(Become)
- まず何を支援するのか(Do/Have)
という3つの段階でサービスを考えていくというものです。
私はUXを学び始めた頃、「課題を解決すること」がUXだと思っていました。
しかし最近は、それだけでは足りないと感じています。
ユーザーがどんな人生を送り、どんな価値観を持ち、どんな未来を歩んでほしいのか。
そこまで考えて初めて、本当の意味で人間中心設計になるのではないかと思いました。
AIがあるからこそ、人間にしかできないことがある
AIはこれからさらに進化していくでしょう。
プロトタイプ作成も、UIデザインも、コード生成も、ますます高速になります。
だからこそ、人間が担う役割は「作ること」ではなく、
- 問いを立てること
- 利用文脈を深く理解すること
- ユーザーの未来を願うこと
- 倫理的な判断をすること
なのだと改めて感じました。
AIは優秀な道具です。
しかし、UXデザインは「何を作るか」ではなく、「なぜ作るのか」を考える営みでもあります。
この部分は、まだ人間だからこそ担える価値なのだと思います。
おわりに
今回の講演は、「AIを使うか使わないか」という話ではありませんでした。
むしろ、
AIを使えるようになった今だからこそ、人間中心設計の本質をもう一度考え直そう。
そんなメッセージだったように感じます。
私自身、普段から生成AIを積極的に活用しています。
だからこそ、「便利だから使う」で終わらせるのではなく、「AIでは考えられない問いを立てられるUXデザイナー」でありたいと、改めて感じたセミナーでした。

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